ツマアカスズメバチについて

ツマアカスズメバチは2012年に対馬で発見され、2015年に特定外来生物に指定されたスズメバチ科の蜂です。まだ日本で初めて確認されてから日が浅いですが、ツマアカスズメバチは繁殖力が高く、凶暴で、生態系の撹乱や、農林業への被害、人への殺傷被害など、様々な悪影響を及ぼします。ツマアカスズメバチの巣や個体も発見したときは、速やかに専門業者と自治体へ連絡しましょう。この記事ではそんなツマアカスズメバチの生態や特徴について説明をします。

特定外来生物のツマアカスズメバチ

ツマアカスズメバチは中国南部、台湾、東南アジアが原産地で、2003年に韓国の釜山に、2004年にフランスのボルドーに侵入が確認されました。日本には2012年10月に長崎県対馬市で初めて侵入が確認されました。生態系、養蜂業への影響、人への被害が懸念されることから2015年に特定外来生物に指定されました。同年福岡県北九州市、宮崎県日南市、大分県大分市で営巣を確認、2019年には山口県防府市で個体と営巣が発見され、本州でのツマアカスズメバチの初確認となりました。
移入の主な原因は中国からの輸入貨物への混入だと言われています。

ツマアカスズメバチの特徴

ツマアカスズメバチの体長は、女王蜂が最大で30 mm 程度、働き蜂は平均で20 mm 程度となります。これは日本に生息するスズメバチの平均サイズと比べても同じぐらいであり、国内最大のオオスズメバチの40 mm と比べても遜色がありません。体色は全体的に黒っぽく、腹部の先端が赤褐色となっています。
しかしその最大の特徴は、被害が大きいことです。ツマアカスズメバチは生態系を破壊し、人的被害も大きく、そして生息域拡大のスピードが非常に速いことが特徴です。

生態系の破壊

ツマアカスズメバチの食性は、他のスズメバチと同じく肉食で、幼虫の餌にするために様々な昆虫を捕まえます。ハエ、ミツバチ、トンボを捕獲することが多く、特にミツバチを好みます。
ニホンミツバチには、もともとスズメバチに巣が襲われた時に、集団で敵の蜂に群がり、体温を高めて蒸し殺す「蜂球」を作り撃退するという習性があります。しかしツマアカスズメバチの場合、その狩りの方法は巣を襲うことではなく、巣に戻って来る直前のミツバチを一匹ずつ個別に襲うことが大半です。そのためニホンミツバチのスズメバチに対する自衛手段が通用しません。
元々対馬には大型種のスズメバチが生息しておらず小型種のキイロスズメバチしかいませんでした。攻撃性が強く体の大きいツマアカスズメバチはキイロスズメバチよりも強く、このままだと対馬にはツマアカスズメバチの天敵がおらず、一方的に捕食が繰り返され、対馬の生態系が崩壊してしまう危険性があります。
もとより対馬ではニホンミツバチを使った日本古来の養蜂業が盛んに行われていたことから、対馬の養蜂業に既に多大な被害が出ています。日本の養蜂業の中心はニホンミツバチ以上に外敵に弱いセイヨウミツバチですので、ツマアカスズメバチが本土にさらに侵入した場合に、各地でミツバチが壊滅的な被害を受け、ミツバチを利用した受粉を行う農業作物も多大な損害を受けることが懸念されます。

人的被害

ツマアカスズメバチは大変攻撃性の高い性質をしており、一度攻撃を始めると執拗に相手を襲います。また都市部での活動も活発であり、元来10メートルを超える高い樹木の枝に巣を作る習性があるため、高層マンションに巣を作るといった事例も発生しています。原産地の台湾や東南アジアでは、ツマアカスズメバチに刺されたことによる死者も出ており、韓国の釜山でも死者が発生しています。

生息域拡大のスピードの速さ

ヨーロッパで最初にツマアカスズメバチの侵入が確認されたのは、2005年のフランス南西部ですが、2010年にはスペイン北部にまで進出しており、2012年にはポルトガル・ベルギー・ドイツでも確認されるようになっています。
これはヨーロッパ大陸が地続きであることや、餌となるミツバチが外敵への抵抗力が弱いセイヨウミツバチであることや、ヨーロッパのスズメバチは小型種が中心で競合相手が少なかったことなどが挙げられます。

ツマアカスズメバチの生態

蜂駆除

ツマアカスズメバチは一匹の女王蜂を中心とし、多数のオス蜂や働き蜂からなる社会性昆虫です。女王蜂は秋に交尾をした後越冬し、春に茂みや低木の中や土の中などの閉鎖的な環境で単独で巣作りを始め、産卵と幼虫の養育を行います。
働き蜂が羽化すると、その働き蜂が巣作りや狩りを行い、女王蜂は産卵に専念します。働き蜂が増えて営巣地が手狭になると、より空間を得られる樹木の上部などに引っ越しをして、巣が大型化していきます。
秋には新女王蜂が生まれ、交尾の後越冬に入りますが、女王蜂以外のオス蜂や働き蜂は死亡します。

ツマアカスズメバチの食性は、タンパク質として昆虫類を、炭水化物としては植物の蜜や樹液を好みます。ハエや蜂やクモやチョウやバッタなどを捕獲し、巣の中の幼虫に与えます。特にミツバチを好みます。ミツバチの巣の前でホバリングしながら待ち伏せをして、巣に帰ってきたミツバチを捕獲します。

ツマアカスズメバチの攻撃性

ツマアカスズメバチの攻撃性は地域によって差があり、現産地では非常に攻撃性が高いことで知られていますが、移入先であるフランスや日本では、他のスズメバチと比較しても特別攻撃性は高くありません。
しかしスズメバチはそもそも攻撃性が高く、一度敵だと認識した対象には執拗に攻撃を繰り返します。意図的に巣に近づいたり、刺激したりする行為は大変危険です。

ツマアカスズメバチの巣の特徴

ツマアカスズメバチは、春は地面に近い閉鎖空間にいますが、コロニーが成長するとより広い空間を求めて上部に移動します。元々の生活空間では高い木の上を好みましたが、ツマアカスズメバチは都市部での生活にも適応しているため、マンションなどの軒下に巣を構えることも少なくありません。開放的な空間に移動した巣はどんどんと拡大し、時には高さ2メートルを超える巨大コロニーになることもあります。

ツマアカスズメバチの駆除

蜂駆除

ツマアカスズメバチの撤去はトラップによる女王蜂の捕殺と、巣の撤去になります。個人で行うのは非常に危険なため、専門業者への駆除依頼が必要となります。

トラップによる女王蜂の駆除は、女王蜂が営巣場所選びを始める3月から4月頃に行います。トラップはペットボトルを改造して中に水や乳酸菌飲料やドライイースト入れたものを用意し、ツマアカスズメバチの捕食対象となる昆虫類が生息する場所に設置します。2週間を目安に交換し、トラップを回収する際はペットボトルに殺虫剤を噴射し、中のツマアカスズメバチが全て動かなくなったことを確認します。

6月頃の巣は、まだ直径10センチメートルと小さく低い場所にありますが、10月頃になると巣は高い樹木の上の方に作られ大きさは50センチメートルから1メートル程度にもなります。巣の駆除には、防護服を着用して薬剤を噴射し、巣を取り外して焼却処分します。ツマアカスズメバチは地上から高い場所に営巣するため、駆除にはクレーン車を使うなど大掛かりな作業が必要になります。またツマアカスズメバチは特定外来生物のため、駆除依頼後は速やかに各自治体への連絡が必要になります。その意味からも、個人で駆除ができるようなものではありませんので、駆除は専門業者に依頼するのが良いでしょう。